2012年 09月 02日
文化の割れ目 ~その92~ |
僕の仕事のひとつにアートディレクション、クリエイティヴ・ディレクションという立場で携わることがある。
その多くは音楽にまつわるものが主なのだが、そんな僕には師匠がいない。
多くのそういう職種の人は、誰かの下で下積みと経験を経て、
独立し、世に立つ、というパターンが多いのだが、
僕の場合は、皆と少し違う。
しかし、そんな僕にも何人か「こころの師匠」という仰ぐ方が居る。
その中のひとりが、大貫卓也さんだ。
氏は主に広告、CMという媒体で活躍された、今や大・大御所の
アートディレクターである。
初めて広告というものにコミュニケーションという方法を用いた発明家である、と僕は思っている。
東京は豊島区にあるとしまえんのポスター類、
カップヌードルのCM、西武百貨店のポスターなど、
氏の初期の作品をコンプリートした作品集が、この本。
ただ面白い、カブいている、人を喰っている、
というだけではなく、人間本来の潜在意識に問いかける様な
普遍的アイディアが詰まっており、
いま見ても、色褪せる事はありません。
僕が言うのもおこがましいのでありますが、
アート・ディレクションの仕事というのは、
物事の様々な角度で捉え、その「視点」を
売り物にしている仕事だと考えます。
なぜ「これ」なのか。
なぜならば「こう」だから。
その自問自答の合点が自分の腕にあって、
はじめて表に出したときに第三者に伝わる、というプロセス。
これをしっかり怠らずに遂行している氏のワークですから、
色褪せることなんてないのでしょう。
クリエィティヴと名のつくものは
もはや常套句化してしまい、僕なんかも
気恥ずかしい気持ちもあります。
そういった仕事の中で自分に求められるのは、
洗練させれたものだとか、スタイリッシュなもの、
の枕詞に使われている感が否めない、というのが
肌で感じています。
でも、本当のクリエィティヴィティーというものは
そういうことを示しているのではないか、そんなふうに
考える毎日です。
とはいえ、この本は、決してこのような職に就いている人以外にも
お勧め出来る、頭を柔らかくして物事を捉えるという、一例の
カンフル剤的読み物としてもお勧め出来ます。
ひとつの広告を作り上げるのに、このような紆余曲折の基に
仕上がってゆく、という勇気にもなります。
と、同時に大貫さんの天才性に僕なんかは凹んでしまいますが。。。。
by green-ball
| 2012-09-02 17:31
| 本