2012年 02月 12日
文化の割れ目 ~その86~ |
僕は気を許すと、ついつい人情ものの映画や書籍を
買い漁ったり、見漁ったりしてしまう。
もう、これは癖のようなものである。
今回手にしたのは、割と好きな作家・エッセイスト、山口瞳さんの
居酒屋兆治。
奪い合いの浮き世に身を於くことを拒み、会社を辞め、
マイペースに脱サラもつ焼き屋へと転身した男の話。
彼の経営する居酒屋の名は兆治。
この居酒屋に集う人間模様、はたまた業を柔らかくコミカルに描いている。
それとこの映画のキモは哀しき恋情も描いている。
ちびりちびりと寝酒を呑む様にぺらぺらとヤッていたのだが、
この小説の途上に、映画が在ることを発見し、
小説は一旦止めにして、映画に浮気。
主演・高倉健、大原麗子。
とびきり激渋男優と、とびきり可憐美人女優。
そして、脇を固める俳優陣も豪華。
SSWの加藤登紀子、当時YMOだった細野晴臣、
僕が愛して已まない伊丹十三、田中邦衞、武田鉄矢、
コロッケのモノマネでお馴染み、ちあきなおみ、そして平田満、
小松政夫、左とん平、大滝秀治、石野真子、小林稔侍、あき竹城....という顔ぶれ。
これだけの濃くバランスの取れた俳優たちが織り成すフィルム、ワルい訳がない。
話言えば、とりわけ劇的なことが起こる訳でもない。
しかし、それが良かった。
過多なドラマチックさは、いらないのである。
頑張ってる庶民とか、清く正しい庶民なんて紋切り型の人間が出てこない。
兆治だって馬券を買うし、飲みに来る客のひとりひとりの人物が目に浮かぶようなのは、
酔ったときの悪い癖や、歪みや偏りを先入観なしに描くからなんだろう。
こういうのをインテリジェンスというのだろうなと、つくづく思ったりした。
この主人公「兆治」のように社員の首を切る役回りにされたら会社を辞め、
モツ焼きの師匠の店と張り合う場所には店を出せず、
好きな女がいても相手に縁談があったら身を引いて、
それが結局女を不幸にするんだけど、でもそういう風にしか生きられない人間はいると思う。
競争社会だ、勝ち組だ負け組だという世の中で、争い事に向かない人間というのは、やっぱりいる。
日本はどうあるべきかなんて理屈より、小説家や映画屋は
しっかりそういう人間を描き続ければいいのだ、と思ったりした。
by green-ball
| 2012-02-12 22:23
| 映画